ニホンウナギは平成26年に絶滅危惧ⅠB類としてレッドリストに掲載され、持続的利用が危ぶまれる貴重な天然資源にもかかわらず、ウナギの漁業生産はほとんど天然種苗(シラスウナギ)に依存せざるを得ない状況です。持続的な漁業生産を可能とする天然資源の涵養や、人工シラスウナギの量産化が求められています。
(1) 資源減少と貿易リスク
海洋環境の変動や、親ウナギ・シラスウナギ(ニホンウナギの稚魚)の過剰な漁獲等により資源が減少しています。また、シラスウナギの国内採捕量は変動が大きく、中国・台湾からの輸入にも依存している状況です。しかし、ニホンウナギがワシントン条約の付属書Ⅱに掲載された場合、アジア諸国からの輸入ができなくなります。養鰻業者等の経営はより不安定になります。
(2) 国際的な池入れ規制
国際的な資源管理を目的として、ニホンウナギ利用の主要国である日本、中国、韓国、台湾の4国間で、H24年に協議を開始しました。H26年に4国において共同声明が発出され、各国のシラスウナギの池入れ量に制限が設けられました(日本は年間21.7t)
(3) 密漁や下りウナギの漁獲
採捕許可を持たない密漁者や、産卵に向かう下りウナギを漁獲する漁師が相応数いることで、資源の減耗に繋がっています。
(4) ウナギ生息環境の改善
ウナギにとって好適な河川環境の保全・再生、石倉かごの効果検証等を通して、天然ウナギの保護に取り組んでいます。
(5) ウナギ種苗(シラスウナギ)生産技術開発
平成22年にニホンウナギの完全養殖に成功し、平成28年には計画的な採卵と年間数千尾のシラスウナギの生産が可能となりましたが、量産化(年間数千万尾)には至っていません。
ウナギの話
「唯一無二なスーパー食材」
日本では単一魚種のみを扱っている料理屋はウナギかフグぐらいです。そして料理屋として伝統が引き継がれ、ハレの食事としての確固たる地位があるのもウナギです。あの香ばしい蒲焼きが、熱々のごはんに盛られる鰻丼や鰻重を嫌いな人はいないでしょう。美味しい上に極めて高い滋養強壮食品(ウナギの栄養価については後述)です。
「串打ち三年、割き八年、焼き一生」といわれるように、ウナギの調理には熟練の職人技を必要とします。そのことからも一層ハレの場にふさわしいと言えます。
「ウナギの栄養価」
(1) 一般成分
日本食品標準成分表2015版(以下出典は同じ)によると、ウナギ(養殖、生)のエネルギーは可食部100gあたり256kcalで魚肉・食肉の中で一番高く、脂質も100gあたり19.3gで最大です。
(2) コラーゲン
コラーゲンは結合組織の中に含まれる筋基質タンパク質で、すべての脊椎動物に存在しますが、ウナギには特異的に多く含まれ、ウナギ魚体の粗タンパク質中40%を超えて存在しています。魚類は遊泳様式により、体全体をくねらせて泳ぐウナギ型やマダイ型、アジ型、マグロ型の4群に分類されますが、コラーゲンはウナギ型に最も多く体全体に分布しています。
(3) 脂肪酸
ウナギは高脂肪食品ともいわれ、筋組織に広く分布しています。前述した全脂肪含量19.3gのうち、脂肪酸は15.45gと他の魚肉や畜肉に比べ多く存在します。全脂肪酸の中で一価不飽和脂肪酸が約55%を占め、そのうちの7割がオレイン酸です。オレイン酸は悪玉コレステロール濃度を下げるといわれ、代表的な油にオリーブオイルがあります。また、魚に特徴的に含まれる多価不飽和脂肪酸のIPA(イコサペンタエン酸、EPAともいう)やDHA(ドコサヘキサエン酸)は他の魚肉や畜肉より多く含まれ、特にDHAは非常に多く含まれています。これらは血液をサラサラにしたり、頭をよくするといわれ、健康食品としての価値も高いです。
(4) ビタミン
ウナギの筋肉にはビタミンA・E・B群が豊富に含まれ、特にビタミンAはウナギの標準的な蒲焼きの半分量(50g)で、成人男性1日の必要摂取量を超え、このことがウナギを食べると元気になるといわれる所以です。ビタミンB2や葉酸、パントテン酸は他の食品に比べ極めて多く存在しています。
(5) ミネラル
ウナギ筋肉に含まれるミネラルのうち、カルシウム(Ca)は他の食品に比べて含量が高く、牛乳よりも高いうえに、カルシウムとリン(P)の比が1:2で理想的な摂取量となります。加えて、ウナギはカルシウムの吸収を促進するビタミンDも多いことから、カルシウムの吸収率は高まるといわれています。この他に亜鉛(Zn)の含量も他の魚種に比べ高いです。
「ニホンウナギの産卵場発見」
「ウナギの起源」
ウナギの起源は古く、今から数千万年とも一億年前ともいわれています。人類の歴史から比較すれば、ウナギは生き物の大先輩です。ウナギを食資源動物としてみると、おそらく人類が樹上から地面に降りたって以来、川岸で簡単に取れるウナギは貴重な栄養源でした。それだけの歴史があるにもかかわらず、ウナギの生態は謎に包まれています。古代ギリシャの哲学者アリストテレスは「ウナギは泥の中から自然発生する」と書き残していますが、ウナギがどこで産卵するのかは長年の謎でした。
「日本人とウナギ」
日本では120ヵ所以上の縄文・弥生遺跡からウナギの骨が出土しています。川や河口で簡単に漁獲できて、栄養価が高く滋養強壮食品の代表格のウナギは縄文時代から重要な食資源でした。一方、ウナギの血液や粘液にはタンパク質の弱毒(加熱で消失)がありますので、経験を重ねながら比較的早い段階で蒲焼きなどの調理方法が行われていたと考えられます。ここでいう蒲焼き「がま焼き」は現在の蒲焼き「かば焼き」と違い、ウナギをぶつ切りにして串に刺して焼いた姿が、水辺に生えている蒲の穂に似ていることから、「がま焼き」が「かば焼き」に転じたものとされています。
夏の「土用の丑の日」
夏の土用の丑の日にウナギの蒲焼きを食べる習慣は江戸中期に始まりました。もともと丑の日には「ウ」のつくものを食べるとよいとされてきましたが、その代表格がウナギです。平賀源内(1728-1780)が客寄せのキャッチコピーとして考案したのが「本日、土用丑の日」です。ウナギ屋の店頭に張り出したところ、その店が大いに繁盛し、その習慣は現在でも続いています。しかし、この習慣が7・8月の蒲焼き消費量が年間の4割を占めるという問題となっています。そのために冬場の最高値期に集中して、シラスウナギを池入れするということになります。シラスウナギの漁期全般(12月‐4月)に平準化して池入れを可能とすれば、養鰻業界の経営はもっと安定化するのではないでしょうか。天然ウナギの旬は脂がのる秋から冬にかけてといわれています。冬にウナギを食べる習慣を持ちましょう。